持続可能な観光と国際認証「トラベライフ」
- In Kanazawa House
- 5月5日
- 読了時間: 4分

近年、観光業界における関心が急速に高まっているキーワードのひとつが「持続可能な観光」です。観光は経済を活性化し、地域の魅力を国内外に発信する重要な産業である一方で、過度な観光開発や環境への負荷、文化的歪みといった負の側面も浮き彫りになってきました。
特にコロナ禍以降、旅行者の価値観が「モノ消費」から「コト消費」、さらには「意味消費」へと変化している今、観光事業者・旅行会社・自治体が持続可能性に配慮した観光開発や事業運営を行うことが、選ばれる地域・選ばれる体験になるための必須条件となりつつあります。
本記事では、観光事業において「持続可能な観光」がなぜ重要なのか、そしてそれをどう実践・可視化するかを整理し、世界的な認証制度「トラベライフ(Travelife)」の概要と導入メリット、さらに地方自治体や旅行会社が持続可能な観光に取り組むための具体的なアクションについて、事例を交えて解説していきます。
■ 目次
「持続可能な観光」とは何か?
なぜ旅行会社や自治体が持続可能な観光に取り組むべきなのか
「トラベライフ」とは?国際認証制度の概要
国際認証を取得するメリット
自治体・旅行会社が取り組むべき次のステップ

■ 「持続可能な観光」とは何か?
「持続可能な観光(Sustainable Tourism)」とは、国連世界観光機関(UNWTO)の定義によると、「現在および将来の経済的、社会的および環境的影響を十分に考慮し、訪問者、業界、環境および受入地域のニーズに応える観光」とされています。この考え方は、以下の3つの観点から成り立っています。
経済的持続可能性
地元経済に利益をもたらす
地域住民への雇用創出
地元企業やサプライヤーとの取引拡大
社会的持続可能性
文化的多様性の尊重
地域住民との信頼関係の構築
地域アイデンティティの継承
環境的持続可能性
資源消費の抑制(エネルギー、水、廃棄物など)
生態系・自然環境の保全
カーボンフットプリントの削減
■ なぜ旅行会社や自治体が持続可能な観光に取り組むべきなのか
旅行者の意識変化
欧米を中心に、旅行者の約7割が「環境や社会に配慮した旅行を選びたい」と回答しています。日本を訪れるインバウンド客の多くはこうした価値観を持っており、認証やサステナビリティへの取り組みがツアー選定の判断基準となる傾向が強まっています。
国際的な旅行業界の動向
大手旅行会社やOTA(オンライン旅行会社)は、持続可能な観光認証の取得を取引条件とする事例が増えています。つまり、サステナビリティに対応していない地域・商品は、将来的に選ばれなくなるリスクが高まっているのです。
地域経済と文化の持続性
地域の観光が一過性のブームで終わるのではなく、地域の文化・暮らし・自然との共生をベースに継続的に価値を生む仕組みへと転換していくことが、結果として地域経済の安定化と若年層の定住促進にもつながります。

■「トラベライフ」とは?国際認証制度の概要
「トラベライフ(Travelife)」は、オランダを拠点とする観光業界向けの国際的なサステナビリティ認証制度です。 ヨーロッパおよび各国のツアーオペレーター協会(英国旅行業協会ABTA、オランダ旅行業協会ANVRなど)と共同開発され、ツアー事業者や旅行会社が自社の運営における持続可能性を高めるための研修や、ツール、および手段を提供しています。これはISO 26000評価項目を含む国際基準およびガイドラインに基づいています。
トラベライフのステップ
Travelife Engaged(エンゲージド):導入初期段階、トレーニングや自己評価を行う
Travelife Partner(パートナー):基準の約70%を達成
Travelife Certified(サーティファイド):200以上の基準を満たし、第三者監査に合格
認証基準の主な内容
エネルギー・水使用量の管理
廃棄物削減とリサイクルの推進
地元雇用と人権配慮
サプライチェーンの透明性
動物福祉や自然保護への配慮
コミュニティとの関係性
■ トラベライフを取得するメリット
海外旅行会社との取引機会の拡大
欧州の大手旅行会社(TUI、EXO Travelなど)はトラベライフ認証取得を取引の前提条件としています。特に欧米豪のハイエンド個人旅行者をターゲットにする事業者にとって、信頼を得るための必須項目になりつつあります。
他社との差別化
インバウンド業界では似たような文化体験が増えています。サステナビリティ認証を通じて、「地域との共生」や「社会的責任」を意識した体験を提供していることが可視化されるため、選ばれる理由になります。

■ 自治体・旅行会社が取り組むべき次のステップ
ステップ1:持続可能な観光の方針を明文化する
サステナビリティポリシーの策定
ステークホルダー(住民・行政・事業者)との共有
ステップ2:簡易診断と自己評価
Travelifeの無料ツールを活用して現状分析
ステップ3:スタッフ研修の実施
サステナビリティに関する定期的な研修(観光・通訳ガイド含む)
ステップ4:国際認証取得の検討
自治体主導でトラベライフ取得を目指す事業者をサポート
地域全体のマーケティング価値を高める